原則的には普段、乗務員さんが運転する車両はほぼ固定されているというのが普通です。業務内容が固定の仕事、つまり専属と呼ばれる場合はなおさらです。
ただ、稀に配車の都合で車両を変更せざるをえない場合もあります。
ただ、変えられることは本人とってはあまり気が進みません。他の慣れない車両に乗るのも嫌だし、大事にしている車両を他の人に使われるというのも嫌なのです。これは当然ですね。
最近、ある都合によって、専属便に乗務しているベテランさんに一日だけ車両の変更を打診。ところが、配車担当者に対し、頑なに、この仕事は他の車両では困るのですと。・・
理由はいろいろですが、車高が低いこの車でないとルートを変える必要が生じる、進入できない行き先があるなど。
ところが、他にも荷台に丁寧な養生がされていて、積載する商品を保護していることから、他の車両を使うとなると、商品を保護するために相当な手間がかかるというもの。
結果的には、配車都合による車両変更はしなくても済んだのですが、この一件で、こちらも思い起こすことになりました。
このベテラン乗務員さんは、帰着が遅くなることも多く、会社で会うのは周囲も暗い頃。運転席で日報を記入しているかと思えば、しばらく運転席に姿がない。後ろの荷台側に回ってみると、薄暗い荷台の照明のなか、時間をかけて丁寧に掃除をしています。
この車両の荷台には全体にウレタンが貼りめぐされています。積載する商品は樹脂製の透明な製品。ビニール袋には入っていますが、わずかのホコリが、輸送中に擦れて微小な傷が付く恐れがあるのです。
だいぶ前にそれが原因で一度、納品先からのクレームの発生があり、それ以降、神経質すぎるくらいに毎回、帰着後に掃除をして、そのような傷がつくのを防いでいます。
このよな頑なまでもこだわりを日常的に励行する人がいて、はじめてクレームゼロの業務が続いているわけです。
ところが、このような事は目立たない事。うっかりすると私も忘れてしまうことがあります。
車両の変更を受け付けなかったのは、ベテラン乗務員さんの静かな炎でした。